ビジネスモデルが運命を変える?――404社の分析から見えた真実

「同じ業界でも、こんなに違うの?」
ページをめくった瞬間、私は目を疑いました。

上場企業404社をビジネスモデルの視点から分析した『会社四季報 業界地図』ビジネスモデル版。
そこには、企業の稼ぎ方と財務体質の関係が、克明に描かれていました。

中でも印象的だったのは、ビジネスモデルの違いによって、平均年収に400万円近い差が生じているという事実。同じ日本で働きながら、ここまでの差があるのです。


背景:9つのビジネスモデル

本書では、企業を次の9つのビジネスモデルに分類しています。

  1. 製造販売モデル
  2. 流通小売モデル
  3. 合算モデル
  4. 継続モデル
  5. フリーミアムモデル
  6. 設置ベースモデル
  7. 広告モデル
  8. マッチングモデル
  9. 補完財プラットフォームモデル

企業によっては複数のモデルを組み合わせていることもあります。
この分類を使うと、業績の特徴や将来性が驚くほど見えやすくなるのです。


展開:モデルによる差は歴然

例えば、高収益で知られる「補完財プラットフォームモデル」。
任天堂やソニーグループがこの代表例です。
対照的に、食品や日用品を中心に扱う「合算モデル」(ウエルシアHD、イオンなど)と比べると――平均年収で約400万円の差。

営業利益率で見ても差は歴然。

  • 合算モデルのトップ:オリエンタルランド 26.7%
  • 補完財プラットフォームモデルのトップ:任天堂 31.6%
  • そして驚きの記録――継続モデルのトップ、インテグラルは 78.1%

数字は、ビジネスモデルが持つ力を雄弁に物語っています。


事例1:アスクルの販売システム

アスクルは、自社の営業所を設けず、全国の文具店などを販売代理店(エージェント)として活用。

この発想は、物流や営業の固定費を大幅に削減するだけでなく、代理店の営業力や顧客ネットワークをそのまま取り込むという利点があります。
代理店は仕入れや在庫管理、配送をせずに顧客サポートに専念できますから、双方にとって効率的です。

結果、アスクルは多品種の商品を短時間・低コストで届ける仕組みを構築。
代理店は地域密着の強みを発揮し、アスクルは全国規模でブランドを広げる――まさに**「Win-Winのモデル」**です。


事例2:合算モデルのカラクリ

合算モデルの鍵は、低価格なフック商品利益率の高い商品の合わせ売り。

ドラッグストア最大手・ウエルシアHDを例に見てみましょう。
売上構成では食品が22.6%とトップですが、粗利益では医薬品(25.5%)や化粧品(17.1%)に劣ります。

つまり、食品は「集客のためのフック」であり、利益は医薬品や化粧品で稼ぐ仕組み。
お客さんが牛乳やパンを買いに来たついでに、化粧水やサプリメントを手に取る――これこそが合算モデルの強みです。

この発想はスーパーやコンビニにも応用可能で、商品構成を変えるだけで収益構造を一変させられます。


事例3:マクドナルドの稼ぎ方

日本マクドナルドHDは、ハンバーガーの販売よりも、継続モデルであるフランチャイズ事業が稼ぎ頭。

国内2982店舗のうち、自社運営は約3割(878店)、残りの2104店はFC店舗です。
フランチャイズ店舗は、ブランド使用料や売上の一部を本部に支払います。
この収益は、店舗が増えるほど安定して積み上がるストック型収入となります。

つまり、マクドナルドは**「店舗という資産を持つより、店舗網という仕組みを売る」**ことで高収益を実現しているのです。


事例4:フリーミアムの巧妙さ

チャットワークを提供する**kubell(クベル)**は、無料プランと有料プランを併用するフリーミアムモデルの代表例。

登録IDは約740万、そのうち有料契約は80万。
無料ユーザーは直接の収益源ではありませんが、サービス価値を広める存在として重要です。
また、無料で使ってもらうことで顧客の業務に組み込み、後から有料化へと移行させやすくなります。

このモデルはクラウドサービスやゲームアプリにも多く採用され、**「使ってもらう→手放せなくする→課金へ」**という心理的な流れを作ります。


事例5:マッチングモデルの高収益

中古車オークションの**ユー・エス・エス(USS)**は、営業利益率50.1%を誇ります。

在庫を持たず、取引の場と仕組みを提供し、その手数料で稼ぐ。
この仕組みは、景気変動の影響を受けにくく、需要が安定しています。
また、取引の回数が増えるほど利益も拡大するため、スケールメリットが大きいのも特徴です。

この構造は、不動産仲介、求人サイト、旅行予約サイトなど、多くの業種で応用されています。


事例6:構築が難しい補完財プラットフォーム

補完財プラットフォームモデルは、そもそも採用している企業が少数。
構築には膨大な初期投資と時間がかかりますが、一度顧客基盤を築けば極めて強力です。

任天堂のゲーム機とソフトの関係はその典型。
ハードを売ることでユーザーを囲い込み、ソフトや周辺機器で長期的に収益を得る仕組みです。
さらに、ソフト開発者にとっても任天堂のプラットフォームは魅力的な市場であり、自然とエコシステムが育ちます。

このように「本体+周辺コンテンツ」での収益モデルは、長期的なブランド力と価格決定力を生みます。


転機:ランキングが教えてくれる未来

本書第4章「ランキングで見る 9つのビジネスモデルの実力」では、営業利益率ベスト10が紹介されています。

継続モデルのトップ10を見ると――
1位 インテグラル 78.1%
2位 日本取引所グループ 57.2%
3位 オービックビジネスコンサルタント 44.7%
…と、安定かつ高収益な企業がずらり。

このランキングを見るだけで、将来有望な企業の姿が浮かび上がるのです。
数字は嘘をつきません。むしろ、未来を映し出すレンズになります。


学び:ビジネスモデルは「戦い方」

本書を通じて痛感するのは、ビジネスモデルは単なる経営手法ではないということ。
それは、企業の運命を左右する「戦い方」そのものです。

同じ商品を売っていても、モデルが違えば利益率も年収も大きく変わります。
投資家にとっては投資判断の材料になり、起業家にとっては勝ち筋を見つける地図になります。

私たちの日常業務にも、この視点は応用できます。
提案書の作り方、営業の優先順位、顧客との関係構築――全て「どう稼ぐか」という戦略に直結しているからです。


まとめ:あなたの仕事も「モデル」で変わる

私たちはつい、「どの商品が売れているか」「どの企業が話題か」に目を奪われがちです。
しかし、その裏にある稼ぎ方の仕組みを見抜ければ、ビジネスの景色は一変します。

もし今の仕事が伸び悩んでいるなら――商品やサービスそのものよりも、ビジネスモデルの設計を見直すことが、最大の突破口になるかもしれません。

404社のデータは、私たちにこう教えてくれます。

「勝ち続ける会社は、売り方ではなく稼ぎ方を磨いている」